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大阪高等裁判所 昭和62年(行コ)43号 判決 1989年2月15日

控訴人

小野山浅夫

被控訴人

土井憲勝

被控訴人

藤原三平

被控訴人

藤原敏憲

被控訴人

吉井誠一

右被控訴人ら訴訟代理人弁護士

藤原精吾

前哲夫

山内康雄

足立昌昭

上原邦彦

前田貞夫

福井茂夫

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者双方の申立

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らの請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

との判決を求める。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨の判決を求める。

第二  当事者双方の主張

当事者双方の主張は、原判決事実摘示のとおり(但し、四丁表一一行目の「包む」とあるのを「含む」と、九丁裏初行の順号(イ)をイと、六二丁裏一二行目の「期期」とあるのを「時期」と、七五丁裏初行の「捕促し」とあるのを「捕捉し」と、各改める。)であるから、これを引用する。

第三  証拠<省略>

理由

一当事者及び監査請求

控訴人が、昭和四六年二月二三日から昭和四九年四月一九日まで及び同年五月一八日から昭和五〇年二月二二日までの間、兵庫県養父郡養父町の町長であったこと、被控訴人らが同町の住民であり、昭和五〇年一二月一三日、本件支出につき、同町の監査委員に対し監査請求をしたが、監査委員は、本件支出が違法もしくは不当な公金の支出であるとは判定することができなかったとの監査結果を出し、被控訴人らは、昭和五一年二月一二日にその旨の通知を受けたことは、いずれも当事者間に争いがなく、同日から法定の三〇日以内である同年三月一三日に本訴が提起されたことは記録上明らかである。

二訴えの適法性

1  町議会の議決

控訴人は、本件支出についてされた控訴人の支出命令は町議会の議決に基づくものであるから、地方自治法(以下、「法」という。)二四二条の二による住民訴訟の対象たりえないと主張するが、普通地方公共団体の長は、当該地方公共団体の条例、予算その他の議会の議決に基づく事務その他地方公共団体の事務を自らの判断と責任において誠実に管理し、執行する義務を負い(法一三八条の二)、予算についてその調整権、議会提出権、付再議権、原案執行権及び執行状況調査権等(法一七六条、一七七条、二一一条、二一八条、二二一条)の広範な権限を有し、その支出負担行為又は支出命令は、議会の議決に基づくことを要するけれども、右議決があったからといって、法令上違法な支出が適法な支出となることはなく、また、監査委員は、議会の議決があった場合であっても、その執行につき長に対して妥当な措置を請求できないわけではないから(最高裁昭和三七年三月七日大法廷判決・民集一六巻三号四四五頁参照)、違法な長の支出負担行為又は支出命令が右監査請求を前提とする同条所定の住民訴訟の対象たりえないとするいわれはなく、控訴人のこの点に関する主張は採用することができない。

2  法二四二条の二第一項四号にいう「職員」の意義

控訴人は、法二四二条の二第一項四号にいう「職員」には、地方公共団体の長が含まれないことは明かであるところ、控訴人は、本件支出につき、地方公共団体の長として支出命令をしたのであるから右四号にいう「職員」には該当せず、本件訴えは不適法であると主張する。

法二四二条の二の規定による住民訴訟の制度は、普通地方公共団体の執行機関又は職員による法二四二条一項所定の財務会計上の違法な行為又は怠る事実が究極的には当該地方公共団体の構成員である住民全体の利益を害するものであるところから、これを防止するため、地方自治の本旨に基づく住民参政の一環として、住民に対しその予防又は是正を裁判所に請求する権能を与えることによって地方財務行政の適正な運営を確保することを目的としたものであって、執行機関又は職員の右財務会計上の行為又は怠る事実の適否ないしその是正の要否について、地方公共団体の判断と住民の判断とが相反し対立する場合に、住民が自らの手により違法の防止又は是正を図ることができる点に制度本来の意義があるものというべきである(最高裁昭和五三年三月三〇日第一小法廷判決・民集三二巻二号四八五頁参照)。

このような右代位請求訴訟の制度の意義、目的に照らすと、右訴訟の被告適格を有する者は、原告により訴訟の目的である当該地方公共団体に対する実体法上の義務を負うと主張されている者であるというべきであり、普通地方公共団体の長が右義務を負う場合を除外すべきものと解する理由はこれを見いだすことができない(最高裁昭和六一年二月二七日第一小法廷判決・民集四〇巻一号八八頁参照)。

控訴人の主張は、これと異なる見解に基づくものであって失当であり採用することができない。

三兵庫県南但馬地方における被差別部落解放運動の概要

昭和四八年から四九年にかけての兵庫県南但馬地方(養父郡及び朝来郡並びに美方郡の一部)における被差別部落の差別解放運動の展開及びその過程においてみられた、解放同盟と、差別解放という目的では一致しながらその運動方針において解放同盟に対立する部落解放同盟正常化連絡協議会(のちに、全国部落解放運動連合会に改組された。)及びその同調者である日本共産党を中心とする反対勢力との対立についての概要は、原判決理由説示(八六丁裏初行から九一丁表一一行目まで)のとおり(但し、八六丁裏初行の「第二四九号証」の次に、「第二六一号証(原本の存在についても争いがない。)」を加え、同裏八、九行目の「撮影者・撮影年月日については弁論の全趣旨により原告ら主張のとおり」とあるのを「撮影年月日については、弁論の全趣旨により昭和五〇年二月あるいは三月の」と改める。)であるから、これを引用する。

四本件支出の契機となった橋本哲朗宅包囲監禁事件、八鹿高校事件、狭山事件裁判闘争の概要

1  橋本哲朗宅包囲監禁事件

原判決理由説示(九一丁裏初行から九五丁表一一行目まで)のとおり(但し、九一丁裏初行の「甲第六号証」を「甲第五、六号証」に改め、同裏三行目の「第三三九号証、」の次に「乙第五九号証、」を加入し、同裏五、六行目の「被写体・撮影者・撮影年月日は原告ら主張のとおりの」とあるのを「昭和四九年一〇月二一日から同月二六日までの間に撮影した橋本哲朗宅の」と改め、九四丁表七行目から一一行目までの括弧書きの部分、同裏三行目から六行目まで、同裏一〇行目から九五丁表四行目までを各削除し、同九五丁表一一行目の「宣告をしている。」の次に「右判決に対して検察官、被告人の双方から控訴したが、昭和六三年三月二九日、大阪高等裁判所は右控訴をいずれも棄却した。」を加える。)であるから、これを引用する。

2  八鹿高校事件

原判決理由説示(九五丁表末行から一〇三丁裏一二行目まで)のとおり(但し、九五丁裏初行の「一ないし二五、」の次に「乙第五九号証、」を加入し、同「甲第二四八号証」を「甲第二四八ないし第二五〇号証」と改め、同二行目の「第二五三号証」の次に「、第二五四号証」を加入し、同六行目の「片山正敏の証言」を「片山正敏、同丸山勇雄の各証言」と改め、九七丁表二行目から九行目までを削除し、同一〇行目の順号「(九)」を「(七)」と改め、同裏四行目から九八丁表七行目までを削除し、同八行目の順号「(一一)」を「(八)」と九九丁表三行目の順号「(一二)」を「(九)」と各改め、同表一三行目から同裏一三行目までを削除し、一〇〇丁表一〇行目の順号「(一四)」を「(一〇)」と、同裏二行目の順号「(一五)」を「(一一)」と、同末行の順号「(一六)」を「(一二)」と各改め、一〇二丁裏三行目から九行目までを削除し、同一〇行目の順号「(8)」を「(6)」と、一〇三丁表五行目の順号「(9)」を「(8)」と、同六行目の「受け、」以下七行目末尾までを「受けた。」と各改め、同八行目から同裏四行目までを削除し、同五行目の順号「(一七)」を「(一三)」と改め、同裏一二行目の「宣告をしている。」の次に「右判決に対する控訴が棄却されたことは前記のとおりである。」を加える。)であるから、これを引用する。

3  狭山事件裁判闘争

原判決理由説示(一〇四丁表初行から同裏一二行目まで及び一〇五丁表四行目から同八行目まで)のとおり(但し、一〇四丁表初行を「各成立に争いのない甲第二九五、第三六三号証、第三六四号証の一、二、第三六五、第三六七号証、原審における控訴人本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、次のとおり認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。」と改め、一〇四丁表二行目の「すなわち、」、一〇五丁表四行目の「(1) 右に述べたように、」とあるのを各削除し、同表七行目の「予測され」とあるのを「予定され」と改める。)であるから、これを引用する。

五本件各支出の違法性

1  八鹿高校闘争及び朝来闘争関係(原判決添付別表1)

八鹿高校闘争及び朝来闘争に関して、控訴人の支出負担行為ないし支出命令に基づき、原判決添付別表(以下、単に「別表」という。)1記載のとおり合計一九二万八二一一円が三回にわたり養父町から八鹿高校差別教育糾弾養父町共闘本部に支払われ、右本部により八鹿高校闘争費用及び朝来闘争費用として支出された経緯についての認定、判断は、原判決理由説示(一〇五丁裏一一行目から一一一丁裏八行目まで)のとおり(但し、一〇六丁表三行目の「解される。」とあるのを「認められる。」と改め、同八行目の「前記甲」の次に「第二五一、」を加入し、同一〇行目の「宮本昭雄の証言」を「宮本昭雄、同片山正敏の各証言」と改め、同裏四行目から五行目の「(理由欄第三の二2(一三)参照)」、一〇七丁表一〇行目の(「理由欄第三の二2(一六)(一七)参照)」を各削除し、一〇八丁表初行の「甲」の次に「第七八ないし第八〇号証、」を加入し、同二行目から三行目にかけて「第七八ないし第八〇号証、第二八〇、」と、一一〇丁裏八行目の「そこで検討するに、」とあるのを各削除し、同裏一二行目の「被告により」とあるのを「控訴人の支出負担行為ないし支出命令により」と改め、一一一丁表三行目から同裏八行目までを「とは認めがたく、別表1の各支出が朝来闘争及び八鹿高校闘争に関する費用についてのものであるため、養父町が直接これを町の予算から支払うことに問題があるところから、形式上、右養父町共闘本部に対して支出する形をとっているものと認められ、したがって、右各支出は、朝来闘争及び八鹿高校闘争を契機として養父町に設置された右養父町共闘本部が負担する同闘争のためのバス代、炊出費用、看板、材料費、用紙代、通信費等の経費を養父町において補助する目的で支出された「補助金」であると認めるのが相当である。」と改める。)であるから、これを引用する。

以上のとおり認められる。

法二三二条の二は、普通地方公共団体が寄付又は補助をする権限を有することを定めるとともに、右寄付又は補助は、「公益上必要がある場合」でなければできないと規定し、補助金行政の限界を明らかにしているところ、右「公益上必要」の有無の判断は、客観的に覊束された行為であり、いわゆる自由裁量行為でないことはいうまでもない。

そして、右「公益上必要がある場合」の意味内容を一義的に説示することは、ことがらの性質上極めて困難であり、結局のところ、個々の具体的な問題に即して、憲法、地方自治法その他の法令の趣旨、内容あるいは法の一般原則に照らしてこれを決すべきであるが、第一に、普通地方公共団体の収入は、まず、法二三二条一項記載の経費に支弁されるべきものであるから、寄付又は補助は、普通地方公共団体の財政に余裕のある場合に始めてこれを支出することができるものであって、寄付又は補助の公益上の必要性を判断するについては、当該地方公共団体の財政上の余裕の程度を勘案しなければならないものと解するのが相当である。

これをいま本件についてみるのに、別表1の各支出は、さきに認定したように、朝来闘争及び八鹿高校闘争に町民が参加するためのバス代、炊出費用、看板、材料費、用紙代、通信費等に充てられたものであるが、朝来闘争は、前記のとおり、部落解放運動の運動方針をめぐる解放同盟と橋本哲朗及びこれに同調する日本共産党らとの対立の渦中において、解放同盟が自己の運動を批判する右橋本らに対抗するために採った実力行使の一環であると認められるところ、橋本らは、同対法の目的である差別解消に反対しているものではなく、所期の目的は帰するところ同一であるが、その達成のために解放同盟が採る確認会や糾弾会における差別解消のための運動方法を非難するものにほかならない。

このような場合、対立する当事者の一方である解放同盟を支援し、対立を実力で解決しようとする解放同盟と共闘体制を採り、闘争に参加することには、特段の事情のない限り、公益に合致する理由は存在しないものというべく、本件における全証拠によっても右特段の事情はこれを見いだすことができないし、加うるに、昭和四九年一〇月二〇日ないし二六日の間の橋本哲朗宅包囲監禁事件の状況や仮処分違反の事実を考慮するときは、朝来闘争に参加する養父町民のバス代や炊出費用等についてまで補助する公益上の必要性があったとは到底認めることができない。

また、八鹿高校闘争は、県立高校内部における部活動としての部落解放研究会設置の是非を巡る教師団と学校長又は県の教育委員会との間の争いに端を発しているが、その実質は、朝来闘争の場合と同じく、同研究会の設置を求める一部生徒を支援する解放同盟と教師団を支持する日本共産党らその同調者との間の部落解放運動のありかたについての政策論争が、解放同盟側の実力行使にまで発展したものであって、その一方の当事者である解放同盟を支援し、これと共闘体制を採って、闘争に参加することには、特段の事情のない限り、公益に合致する理由は存在しないものというべきである。

さらに、八鹿高校事件発生後の共闘会議の活動は、部落差別解消を直接の目的とするというより、むしろ、八鹿高校事件において共闘会議側に暴力の行使がなかったことの宣伝など、その正当化や法廷闘争の強化、捜査の拡大に対する牽制、日本共産党に対する闘争の強化等に拡大していったといえるところ、このような活動は、部落差別解消という公益目的の実現とは程遠いものがあることを併せ考えると、前記バス代、炊出費用その他の経費を共闘会議に対して補助することに、法二三二条の二に定める公益上の必要性があったとは到底認められない。

2  八鹿高校公判闘争関係(別表2)

八鹿高校事件につき逮捕、勾留ないし起訴された共闘会議員らに対する警察、検察庁の捜査、裁判所の裁判に関しての闘争費用として、控訴人の支出負担行為ないし支出命令に基づき養父町が解放同盟藪崎支部及び同東上野支部に対し、別表2のとおり合計九〇万円を支出した経緯についての認定、判断は、原判決理由説示(一一七丁表一二行目から一二〇丁表四行目まで)のとおり(但し、一一七丁表末行の「成立に争いのない」とあるのを「前示」と改め、同裏七行目の「事実」及び一一八丁表四行目の「成立に争いのない甲第二六八号証」とあるのを各削除し、同表三行目の「前示甲」の次に「第二六八、」を加入し、同表五行目から七行目にかけて「印影部分の成立については当事者間に争いがなく、その余は弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる」とあるのを「作成名義人の名下の印影の成立について当事者間に争いがないので全部真正に成立したものと推定される」と改め、同表九行目から一〇行目にかけての括弧書き部分を削除し、同裏四行目の「十数名を」とあるのを「十数名の」と、一一九丁表五行目の「模様である。」とあるのを「ものと認められる。」と、同裏一一行目の「人数」とあるのを「相当数の人」と各改め、一二〇丁表四行目の次に改行して「(7) なお、藪崎支部の活動状況も東上野支部のそれと同様である。」と附加する。)であるから、これを引用する。

以上のとおり認められ、右認定事実によれば、別表2記載の各支出は、解放同盟藪崎支部及び同東上野支部が八鹿高校事件につき逮捕、勾留されている丸尾良昭ら八鹿高校差別教育糾弾闘争共闘会議員の釈放等を要求する活動の経費を補助するための「補助金」であるといわなければならず、したがって、前記説示のとおり、右各支出については法二三二条の二に定める公益上の必要性が要求されることが明らかである。

ところが、右各支出は、前記のとおり解放同盟の右二支部が警察、検察庁の捜査、裁判所の裁判を違法もしくは不当なものときめつけて、逮捕、勾留されている丸尾良昭らの釈放を要求する活動経費に対する補助金であると認められるところ、現に裁判所において審理中の具体的な事件の内容にわたってその当否を主張し、一定の内容の裁判を要求することは、普通地方公共団体の果たすべき事務の内容とは無縁のものであって、そこには補助金行政を通じて実現されるべき公益目的及び行政効果はなに一つ期待することができず、右支援活動を行った解放同盟の二支部に対して合理的な理由に基づかないで特別の利益を与えたにすぎないものであって、いかなる意味においても公益上の必要性を認めることができない。

3  狭山事件闘争関係(別表3)

狭山事件闘争に関して、控訴人の支出負担行為ないし支出命令に基づき、養父町が別表3記載のとおり解放同盟養父町支部連絡会ほか六団体、一会社に対し、前後九回にわたり合計六五七万一〇〇〇円を支出した経緯についての認定、判断は、次のとおり附加するほか原判決理由説示(一二一丁表四行目から一二三丁裏一〇行目まで)のとおり(但し、一二一丁表五行目の「第二八六号証」とあるのを「甲第二八六号証」と改め、同裏三行目の「ついてみるに、」の次に「前示甲第七一号証」を、同四行目の「乙第一〇号証、」の次に「原審証人宮本昭雄、同丸山勇雄の各証言」を、一二二丁裏一二行目の「甲第二四六号証」の次に「原審証人宮本昭雄の証言」を各加入し、一二三丁表九行目の「成立に争いのない」とあるのを「前示」と、同裏八行目の「推測」とあるのを「推認」と各改め、同裏九行目の「借り上げ、」の次に「別表3(7)記載のとおり」を加入する。)であるから、これを引用する。

「(三) 別表3(8)(9)について

<証拠>を総合すると、次のとおり認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(1)  別表3(8)の支出は、養父町の南民協に対するものであり、その使途は、昭和四九年八月二二日に和田山公民館前で開催された狭山差別裁判完全勝利南但総決起大会の費用に充てられたものである。

(2)  別表3(9)の支出は、養父町が全但交通株式会社に貸切りバスの代金として支払ったものであり、右貸切りバス使用の目的は、前記南但総決起大会に参加する養父町内の解放同盟支部員らの送迎であった。南民協は、右大会の主催者の一員であり、大会の目的は、狭山裁判を差別裁判ととらえ部落の完全解放達成の実戦行動を起こすことにあった。」

以上のとおり認められ、右事実によれば、別表3(1)ないし(6)の各支出は、昭和四九年九月ころから同年一〇月三一日に言い渡された東京高等裁判所の判決に至るまでの間、東京において開催された狭山裁判闘争に参加する養父町内の解放同盟五支部員の交通費、弁当代、宿泊費等の費用に充てるための「補助金」として、右五支部ないしその連絡会に対し、交付されたものであり、したがって、右支出は法二三二条の二所定の公益上の必要性がある場合でなければならないことは前記説示のとおりである。ところで、現に裁判所に係属中の具体的事件につき、普通地方公共団体がその裁判の内容について当否を主張し、その一方の側に立って闘争を展開し、または、その補助をすることは、普通地方公共団体の果たすべき行政目的とは無縁のものであることは前記説示のとおりであり、したがって、右公益上の必要性を肯認することはできないものといわなければならない。

次に、別表3(7)の支出についても、借り上げたバスの使用目的は、前記認定のとおり、狭山事件裁判の東京高等裁判所判決に向けての全国集会に解放同盟支部員が参加するためのものであるところ、このような目的のための使用について普通地方公共団体である養父町が右使用料金を代わって支払うことにより補助をすることには、別表3(1)ないし(6)の支出と同じく、公益上の必要がある場合でなければならないにもかかわらず、これを見いだすことは困難である。

また、別表3(8)(9)の支出についても、別表3(1)ないし(7)の支出と同様の理由により、公益上の必要性があることを要するところ、これを認めることはできない。

4  控訴人は、本件各支出が適法であるとして、その根拠につき縷縷主張するが、いずれも独自の見解に基づくものというべく、採用することができない。

したがって、控訴人の本件各支出にかかる支出負担行為ないし支出命令は、いずれも法二三二条の二に違反する違法なものであるといわなければならない。

六控訴人の責任

前記説示のとおり、普通地方公共団体の長の財務会計に関する職責及び広範な権限に鑑みると、その賠償責任について、他の職員と異なる取扱をされてもやむを得ないものがあり、法二四三条の二第一項所定の職員には当該地方公共団体の長は含まれず、その当該地方公共団体に対する賠償責任については、民法の規定によるものと解するのが相当である(前掲最高裁昭和六一年二月二七日第一小法廷判決・民集四〇巻一号八八頁参照)。

ところで、これまでに認定した事実に加え、<証拠>を総合すると、次の1ないし3のとおり認められ、右認定に反する控訴人本人の供述の一部は直ちには信用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

1  朝来闘争関係の支出

控訴人は、朝来闘争に際し、養父町共闘本部を組織してその本部長に就任し、右闘争の終わりに近い昭和四九年一〇月二五日には、橋本哲朗宅付近で同人糾弾の決意を表明し、同日及び翌二六日の両日、養父町民に対し右闘争に参加するよう呼びかけたのみならず、自らも勝利者集会、総行進に参加して、前記認定にかかる朝来闘争の内容を十分に知悉していたと認められることを、朝来闘争に関する支出の大部分は、朝来闘争事件について丸尾良昭が兵庫県警に逮捕された昭和五〇年一月二二日以降のことであること、控訴人は、遅くとも昭和四九年一〇月二六日には前記神戸地方裁判所豊岡支部の仮処分命令の内容を知っていたことなどのほか、控訴人は、朝来闘争の実体が部落解放同盟とこれに対する日本共産党らとの間の部落差別解消運動を巡る争いであって、このような団体間の争いについて行政権力がその一方にくみすべきものではないとの理解をしていたことが認められることに徴すると、控訴人は、朝来闘争に関する本件支出が法二三二条の二に違反する違法なものであることを知っていたか、普通地方公共団体の長として求められる注意義務に反してこれを看過した過失があったというべきである。

2  八鹿高校闘争及び八鹿高校公判闘争関係の支出

控訴人は、八鹿高校事件が発生した昭和四九年一一月二二日に付近の八木川河原において、同校体育館で同校の教師たちが暴行を受けているとの高校生の発言を聞き、同日夜には、解放同盟員らが右教師らに暴行を加えたことを知っていること、右事件につき丸尾良昭らが逮捕された後には、その釈放を求めて控訴人自身が裁判官等に面接を行っていること、これら闘争に関連する本件支出は、いずれも丸尾良昭ら逮捕後に行われていることのほか、前記説示のとおり、警察、検察庁の捜査、裁判所の裁判の不当であることを訴えて、具体的な事件につき逮捕、勾留されている者の支援のための費用を補助するようなことは、もともと行政の関与すべきことではないことを控訴人自身が認識していたと認められることに照らすと、朝来闘争に関する支出の場合と同じく、控訴人にはこれらの支出が違法であることにつき故意又は過失があったものといわなければならない。

3  狭山事件公判闘争関係の支出

狭山事件公判闘争のごとき現に裁判所に係属中の具体的な事件につき、その裁判の不当であることを主張し、被告人の無罪獲得を掲げての運動に対してその費用を補助することが、いかなる意味においても普通地方公共団体の果たすべき公益とは無縁のものであって、右闘争に関する本件支出が法二三二条の二に違反することが明らかであることは前記説示のとおりであり、控訴人は、その違法であることを知っていたか、知らなかったとすれば、そこに普通地方公共団体の長として要求される注意義務を怠った過失があるといわなければならない。

控訴人は、本件各支出が行われた当時、兵庫県から各市町村に対し、部落解放運動団体の要求はその必要性を検討し、解放につながる経費はこれを負担して援助するように、強力に指導されていたものであって、そのため、控訴人としては、右各支出が違法であるとは認識することができなかったと主張し、<証拠>によれば、右主張に副った事実があったことが窺われないではないが、前記説示のとおりの普通地方公共団体の長の財務会計についての職責及び広範な権限に照らすと、右事実があったとしても、そのことにより本件各支出についての控訴人の責任が阻却されるものとは認められない。

また、控訴人は、本件各支出については、当初予算案あるいは補正予算案を可決した町議会又は控訴人の支出命令に基づいて支出をした収入役においてもこれを適法と判断していたし、本件支出の違法性を主張して町長選に当選した他の町長らも本件支出と同旨の特別負担金を支出しており、右事実に照らすと、本件支出の違法性につき控訴人に過失があったとはいえないと主張するが、前記説示にかかる普通地方公共団体の長の財務会計についての職責及び権限に照らし、右主張の事実があるからといって控訴人の本件支出についての責任が否定されるものとは認めることができない。

七損害

以上認定の事実によれば、本件各支出にかかる控訴人の支出負担行為ないし支出命令により、養父町は、本件各支出金合計九三九万九二一一円相当の損害を被ったことが明かである。

控訴人は、本件各支出の必要性について、南但一〇町が共同して兵庫県知事に強く要望した結果、特別交付税が交付され、結果として本件支出が補填されたので、損害はないと主張するが、右主張が理由なく採用できないことは、原判決理由説示(一二六丁表三行目から一二七丁裏六行目まで)のとおり(但し、一二六丁表三行目の順号(二)及び同五行目の「第五一号証」とあるのを各削除し、同三行目の「第一〇号証、」の次に「第三〇号証、第五一号証、」を加入し、一二七丁表四、五行目の記載、同六行目の順号(三)、同七行目の「当時の」から同九行目の「すれば、」までの記載を各削除し、同一〇行目の「ことを」の次に「一つの」を加入し、同裏三行目の「充てる」とあるのを「充てなければならない」と改める。)であるから、これを引用する。

八以上によれば、控訴人の故意又は過失に基づく本件各支出にかかる支出負担行為ないし支出命令によって、養父町は九三九万九二一一円の損害を被ったことが明らかであり、控訴人は、養父町に対し、右損害の賠償として右九三九万九二一一円及びこれに対する本件各支出の後日である昭和五一年三月二三日から右支払済みに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いをすべき義務があることが明らかである。

よって、養父町に代位して右損害の補填を求める被控訴人らの本訴請求は理由があるから認容すべく、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官後藤勇 裁判官東條敬 裁判官横山秀憲)

参考

原判決添付の別表

番号

項目

番号

支出

決定日

支出

年月日

支出金額(円)

受取人

支出決定書記載の事由

1

八鹿高校闘争

及び

朝来闘争

(1)

昭和49.12.28

昭和49.12.28

321,346

八鹿高校共闘会議事務局

宮本昭雄

八鹿高校共闘本部経費負担金

(2)

50.1.31

50.1.31

1,197,775

八高共闘本部事務局

宮本昭雄

同上

(3)

50.2.22

50.2.22

409,090

共闘本部事務局

宮本昭雄

同上

小計

1,928,211

2

八鹿高校

公判闘争

(1)

50.2.10

50.2.12

300,000

部落解放同盟藪崎支部長

坂本逸雄

八鹿高校闘争に伴う支部活動費助成

(2)

50.2.10

50.2.14

600,000

部落解放同盟東上野

支部長 安井佐太郎

同上

小計

900,000

3

狭山闘争

(1)

49.8.30

49.8.30

2,940,000

部落解放同盟養父町支部連絡会

会長 安井佐太郎

狭山裁判公判のための支部同盟員活動費

(2)

10.29

10.29

630,000

部落解放同盟藪崎支部

支部長 坂本逸雄

狭山公判闘争費 藪崎支部

70×9,000=630,000

(3)

10.29

10.29

180,000

部落解放同盟新津支部

支部長 村下幸男

狭山公判闘争  新津支部

20×9,000=180,000

(4)

10.29

10.29

360,000

解放同盟新町支部

支部長 中谷盛一

狭山公判闘争費

40×9,000=360,000

(5)

10.29

10.29

117,000

解放同盟十二所支部

支部長 川本一春

狭山公判闘争 十二所支部

13×9,000=117,000

(6)

10.29

10.29

702,000

部落解放同盟東上野支部

支部長 安井佐太郎

狭山公判闘争費東上野支部

78×9,000=702,000

(7)

12.7

12.9

1,515,000

全但交通(株)

藤坂昭二

10/31~11/1狭山裁判のための支援闘争

部落解放同盟町内五支部東京へ

小計

6,444,000

(8)

49.10.14

49.10.18

27,000

南但民主化協議会長

8/22狭山差別裁判勝利南但総決起大会負担金

(9)

49.11.5

49.12.27

100,000

全但交通(株)

藤坂昭二

狭山差別裁判反対南但総決起集会送迎貸切バス代8/22

小計

127,000

6,571,000

総計

9,399,211

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
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